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おとぎばなし [17_随筆・随想]

大正元年生まれの祖母は、当時中学生だった私にはとても大きくて、
昔の家の水回りを守り続けるような人でした。

けれど、セイジ、とか、シソウ、とか、ヨロン、というものには無頓着で、
毎日お茶碗を洗うように、水に流して過ごしていきました。
父が祖母に、「おかあ、おやつ!」と言えば、
祖母は「これでもくろとれ!」といって、ブーーーーツッ!と、
一発、父に浴びせては、「屁は出で良し、鳴って良し!そこらの埃も、取れて良し!」と、
笑い飛ばすよな豪傑だったと、聞きます。
日本の教科書が、「はと」、「まめ」、と書ければ、女学生と認めた時代、
祖母の口癖は「千両蔵より子は宝」、でした。

けれど、平成二十七年。
祖母が死んで幾十年が経ち、おやつ、おやつ、と、
祖母の着物の裾を引っ張っていた父すら、世の中に追いやられていき、
とうとう寝込んでしまえば、無視できなくなった、
シャカイ、とか、シソウ、とか、ヨロン、とか、セイジ、とか、、、、。

介護保険を支払っているから、とか、よりも、ガイコクジンヘルパーを雇用しても、
人数が足りない老人大国、日本の国の片隅で、私の家は病院通い。

入院しても看護婦さんが、ツレナイのは、お金を握らせてないからだと、
どこぞの高級ホステスか倶楽部に通うかのように、錯覚していく父。
いいえ、本当はそういう仕組みになっていたのかのかもしれません。
とぼけてしまった父の話ですから、何とでも誤魔化せます。私も。病院も。

人の命が地球よりも重いなどと、教えた人は伝説になりました。
その説が本当の話であったならテンノウヘイカ、が死んでも、私が死んでも、
同じくらいの人が、同じ悲しみを持ってくれますか?って、
センセイみたいな人に聞いて回りたい。
例えば、お父さんみたいなおばあちゃんに。

ソウリダイジン、とかクニが決めた、ソシキ、とか、キギョウ、とかの
シホン、は、お金じゃなかったの?シホンと、キホンって、
どこですれ違っていったのかな?


「千両蔵より子は宝」って、言っていたおばあちゃんが消えた日、父はいい放つ。
「出ていけ!金さえあればお前の世話になんかなれへんわい!」
母が追い討ちをかける。
「私かって、お金さえあれば、あんたらの世話にはならんと、一人で快適に暮らせたのに!」


いつか、おとぎばなしに、なればいいのに。
蔵の建たない家の話。
役に立たない子供の話。
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 [17_随筆・随想]

 パチンコ屋の換金所の前で、もう何時間もひとり遊びをしている子供がいた。  台車の棒にぶら下がったり、独り言を喋ったり・・・。  どうやらこの子の両親は、パチンコに夢中になっているらしい。 「おばちゃん、コレ開けて。」  ガチャガチャの機械から取り出したプラスチックの、丸いボールの蓋を開けてと言う。 「ありがとう」  女の子は無邪気な笑顔で、再び換金所の前に座る。  夕日は、傾きかけていた。  ”この子の親は、どうしているのだろう・・・。”  そんなことを考えていたとき、それを見ていた私の母が、 「あの子は、強い子になるだろう・・・。孤独ということからは強い子になる。」 と、言った。 その時、女の子の母親らしき人が、 「もう、中で遊びなさいって言ったじゃない!」 と、女の子の手を、強く引っ張る。  その子は母親の大きなお腹を擦っては、 「赤ちゃん、赤ちゃん。」 と、言い続けた。 どうやら、母親は、妊婦らしい。 そして、換金所で働く母の話では、毎週二回、土曜日曜、女の子は換金所の前で、遊ぶ。    【孤独から強い子になる。】  母の一言が、頭の中でリフレインする。    果たしてそうだろうか・・・?  今度は赤ちゃんが生まれるというのに。  赤ちゃんが産まれたたら、母親は姉になるその子の面倒までみれるだろうか。  幼い頃の愛情不足が、大きくなって暴走しなければよいのだけれど・・・。  その子も寂しい。私もなんだかやるせない。また、パチンコでしか満たされないその子の両親すらも。    いつからこの国は、こんな孤独な社会になったのだろう。  夕日はもう、とっくに沈んでしまったというのに。  こぼれたパチンコ玉を見つめながら、 少女は自分にしか分からない唄を歌っている。

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