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 [02_詩]

夕刻をたどる人からさびしい曲が流れはじめ
さよならを叫ぶ園児の笑顔からは明日がこぼれる
人は足あと分の音を抱えながら
無言でラーメンを啜ってみたり
背中に沈黙を乗せたり
明日に小さく期待してみたりする

広場から聞こえるギターは
逸る気持ちを訴えたり
たそがれには似合わない甘い色を光らせるが
夏の夜の底を潜る者たちには届かない

〝どこかの主義主張は燃やされていったよ〟
〝きっと全ての人にそれはおとずれるよ〟
きちんとした絶望とそれに変わるものを
教えてあげることが親切だ、と
中途半端に大人になった人たちが
子供を夢の住人にする方法を探している

星もない曇り空がつづいている。鳥たちは翼をたたみ鳥目になった。光り輝くものから無縁になりながらも、道路ではライトとネオンが交差し、ライターはその間で小さな火を燃やしつづけた。煙草に火をつける人と火をつけられた人が吐き出す、ホワイトグレーの息で街はおおわれ、鳥もヒトもケムリに巻かれる。今までしてきたことが道の上で立ち上り、蜃気楼になって記憶を蒸発させていく。誰もが吸い殻になることを知っていながら、見栄えのする火に先を挟まれ街でホタルになって消えていく。前もなく後ろもなく、ただやみくもに歩き靴をすり切らせてどんどん足はなくなっていくのに、立ち止まることを教える人はいない。

真ん中にいると信じていた。さよならの続きは〝また会える〟 ──
声は喉元でしまわれ奥底からはいつまでもさびしい音をつれてくるのに今晩も大人たちは子供に未来を描けと、うたいあげる。夏の街で人々は、花火も上がらない夜を見上げる。幼子たちは、カラカラに乾いた喉を空に向け、はぜる花火の音を口の中へと抱え込み、火傷の舌に小さな唄を乗せていく。
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橋の上 [02_詩]

橋の上から下を見る人、上る人と下る人
いちにち、は時計どおりに進むが
いちにち、を今から始める人と終えた人が
橋を境に上下する

お疲れ様に向かう白や黒に乗車した人と
夜が戦場だとピンヒールで纏め上がった
黒いベロアのロングコートと赤すぎる唇たちと ── 。

いちにち、の行方も知らず、
突き進む人と尻込みする人、そのあわいで
シフトの調整メモとタイムカードが記憶する濃いインク
クリスマスソングに踊らされながら 動く人と休む人

橋の上で下を見つめる人と 下から上を見つめる人と
いのちは同じでも いちにち、は其々にたそがれていく

マスクは夜をたどる人の口を塞いでいく
目に見えるものが全てではない事はすでに語られていて
いちにち、について全てを語れる人もいない

時計回りの時間とわたしが途方に暮れている
橋の上から飛び込めば何もかも止めることができる、
かもしれない、など 頭をよぎって背中を笑う

橋に居並ぶたくさんのわたしが背後に押し寄せていて
下を見ながら楽になりたいと舵取りにつかれ
バランスを崩し 足を左に踏み外す

踏み外した足、より速く
止まらない救急車に乗せられ
いのちを病院で逆走させようと
いちにち、の行方をおしはかる

いのちを計ろうとして 失敗した腕時計は外され
マスクの必要もなくなった わたしが
何か言いたげな目を上に向けたまま
閉めることができない口を ポカンとあけて
橋の上を歩いていく 



*「詩と思想3月号掲載原稿」
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らくがき [02_詩]

からだに イヌと かかれた日
はだかで わんわん 泣いていた
そとに でるときは 四つん這い
イヌでは ないが 犬だった

からだに ブタと かかれた日
もっと なけよ、と 笑われて
なくに 啼けずに 哭いていた
ブタの ように 生まれて いたなら
もっと たやすく 啼けたのに

たにんの かいた らくがきが
どんどん ふくらみ こうしんして
からだじゅうを のろいに かける

それが たのしい だれかも いて
とてつもない もじたちが
ヒトを ジュモンに かけていく

わたしの からだに かく ばしょが
きのうで すっかり なくなった
ビルの たにまに ヒトの カタチが
しろい チョークで らくがき された

   わたし、
    (やっぱり ヒトだった
   すべて、
    (しっかり ヒトだった

       *

あすは だれが ターゲット
アシタハ ダレカヲ ターゲット


*「ファントム5号掲載原稿」
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わたし [02_詩]

右手は清いが左手は汚い。汚れた手なら切り落としてしまえ。
右目が見えるものを左目は見えない。見えない目なら節穴も同然。
左足が前に進むと右足は退く。使えない足なら切り捨ててしまえ。
右肩が上がるなら左肩は下がる。頭が平衡に保てない肩書なら潰してしまえ。
口に出してはいけないことを口にする。そんな素直な心は壊してしまえ。
すべては体が資本。器だけ残ればいい。

   右手が左手を抑えつけ
   右目が開くと左目は閉じる。
   左足が右足を踏みつけて
   右肩の意見に左肩は従い続ける。
   口はとうとうゲロを吐き
   心はどんどん遠ざかる。

右手を切り捨て左目をくり抜き右足を失って
バランスの定まらない視界を口にする頭に
もはや涙は宿らない。

カラダだけが累々と行進していく茫漠の土地で
イタイの群れを横目に通り過ぎ
先程、遠目に見送ったのは
一体、誰。


*「ファントム5号掲載原稿」
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微熱 [02_詩]

   
── 微熱が台所の音に責められている

頑丈な米袋から差し込まれる骨太の手は
台所から 私の胸倉へ押し入ってくる

洗い場の指たちは
羽釜の水をかき回し
じわりじわり しこりを擦りつづけている

シンクを叩く水音は はね上がり
寝室の私の頬にも 降りかかるが
しまわれていたままの米袋の手は
胸元を掴んだまま ゆるさない

炊飯器を仕掛けた指たちが
温めて膨れてできた仕舞事

振り返れば小さな虫が 一匹、
ペーパータオルの隅を カサコソと
夜の最中を逃げていく

一生懸命だけどみっともない。
生きることに 後ろ指をさされながら
朝になれば食事をする
(死にたくない、からだ

多くの言い訳を詠いながら
台所の音が 私の頭をうずめていく

シンクの前に立つ人の
思いつめた横顔の下を
とてつもなく うしろめたい水が
落ちて拡がりつづけているが
私は その音を
止めることができない
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先生 [02_詩]

先生はおもむろに厚い本を取り出し、その中にいる私を見つけようとしていて。
私は寂れた町の夕暮れの隅っこで、半額引きの親子丼ぶりを食べながら怯えていて。
先生は男色家たちの優雅な生活について語っていて。
私は先生に見つけてもらえるよう、暗い町の端っこで白いノートに私の生活を綴る。

先生は黒いマスクに黒縁の眼鏡。黒い礼服を着ていて。
黒い本の中の白いページに浮かぶ文字列に、私の姿を探そうとしていて。
私が挙手して合図を送ったのは、なぜか疲れた顔の役人で。

           *

  お前のくせに何を食べているといい、
  お前のくせにこんなものを食べていたのかといい、
  お前のくせに文字が書けたのかといい、
  お前のくせに免許証を持っていたのかといい、
  お前のくせに病院に行くのかといい、
  お前のくせに。

           *

先生は私について、海外貿易を心臓のバイパス手術に例えた話を語り、
救出がとても困難だ、と呟く。次のページを敢えて飛ばして新しいセンテンスや
小見出しに目を向けて、赤のラインマーカーを引く。
私はそのまま飛ばされ挟まれ、赤く潰された。

先生は何事もなかったかのように本を閉じ、
テレビのチャンネルを切るように画面を閉じる。(目を閉じる。
ヴィヨンの妻があった本棚にヴィジョンの毒と変換されたファイルがそっと、
保管されていたのは見たが、机の上に置かれた厚い本の名を知ることはできない。

本に挟まれた私の顔に赤いマーカーで「お前のくせに」と
大きなバツ印が書き込まれて、私が先生とおもっていたのは誰だったんだろう、
先生。
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くりかえしの水 [02_詩]

真夜中の台所で 小さく座っている
仄暗い灯りの下で湯を沸かし続けている人
今日は私で 昔は母、だったもの、

秒針の動きが響くその中央で
テーブルに集う家族たちが夢見たものは
何であったのか

遠く離れて何も言えなくなった人たちに
答えを聞くことも出来ず
愚問の正解を ざらついた舌で確かめながら
朝へと噛みしめていく

秒針に切り刻まれながら刻一刻と
日が昇ることを考えていると
とてつもない老いが頭や肩に
霜となって固まり始める

今日あったことを 書いたり話せる相手が
いつかいなくなってしまったとしても
台所に佇んでいるこの静かな重みは
いのちが向かい合って 椅子に並んでいた姿

使い慣れた菜箸で挟みたかったもの、
古びた布巾で包んでしまえなかったもの、
隅においやられた三角ポストが呑み込んだ
役立たず、という言葉と出来事が
おたまの底にぶら下がって すくえなかったあの頃

生きることは火で水を沸かすこと、
水で喉を潤していくこと、
くりかえされる水について
不確かなものが取り残され確実なものは流されていく

うつらうつらと霞んでいく風景の向こう、
悴んでいた古くさい夜が反省と再生を繰返し
深呼吸をして泪粒ほどの朝日を吐き出す

いつしか毎日は 湯気のように立ち上がり
人は再び、光のほうへと目を向けていく





(詩と思想3月号掲載作品)
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玉葱 [02_詩]

玄関を出るときいつも気になっていた
軒先に干されていた玉葱たち
錆びた脚立の三段目に簀子をまたがせ
置かれた大量の玉葱

大きなビニール袋の下では
腐ってしまうその中身を
丁寧に木板の上に並べていた人

力のない手のひら
動かしにくい指先
(割れないように
(長持ちするように

家の軒先
陽当たりを加減して
(落とさないように
(傷つけないように

       *

先週、カレーライスが食べたくて 
薄皮を剥いでいった
今週、スパゲッティが食べたくて 
表面の皮を破り捨てた
今晩、肉じゃがにするといって
芯を取り除き乱雑に包丁で刻み込んだ

夜、納戸にまで水が浸み込む暴風雨に曝されて
外干ししていた玉葱たちは
転がりながら 行方不明になったり
落ちて傷ついたまま 溝の中で腐っていった
以来、
玉葱を上手に並べて干してある家を尋ねて歩く

玄関の扉は開けっぱなしで
軒下から転がり落ちたものを
必死で並べようとした人を
いつまでも 
探してみたりして
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 [13_意味深詩]

子犬だったら、可愛いだろう。
言うことも聞くだろうし、連れて歩けば皆、振り返る。
家人だってまんざら嫌な顔なんかしない。

それにつけても血統書付き。
自慢のタネだし御犬様だってそれを誇りに生きてやがる。猫なんてやつは猫の目をして自由気ままに生きてやがるが、明日をも知れぬ放浪猫。恩返しの頭もない上、ただ飯喰らい。犬はいい。犬はいいぞ!

いくらなんでも十五年も経っちゃ、大きくもなるさ。いや、まいったな、そうか。十五歳といえば壮年層。月日が経つのはとんと、早いもんだね。あの夫婦も齢をとっちまったんだろう。なんせ、犬を飼いだした時から随分と高齢だったしな。

おっと、今じゃ放し飼いとは…、なんじゃそりゃ。
血統書付きを放し飼いとは、ブルジョア様のすることは底がないねぇ…。

ちがった、ちがった。
子供たちが村を出ていって大きくなっちまった犬に手をやいてるってさ。力の強い犬だろう…。かといって、家の中に入れたままにしといちゃ犬だって、ストレスだらけってなもんだ。だから夜中にこっそり首輪を外して野放しにするんだと。朝一番に啼く鶏の声を合図に犬は帰ってくるっていう寸法らしい。なんせ朝まで締め切っているんだからな。齢をとったとはいえ可哀想なのは、犬なんだか、人なんだか…。

おいおい。最近あの犬を老夫婦が苦にして貰い手を探しているそうじゃないか。血統書付きなら高くも売れるってもんだ。どうだい、あんたたち、犬一匹飼ってみては?

何言ってるんだい。悠長なことをお言いでないよ!
昨夜、例の放し飼いの犬がとうとう人を噛んだって有線放送が村に流れたばかりじゃないか。そんな始末に負えない犬を、今更誰が手に入れたがるんだい!
噛まれた歯型のついた部分からかなりの出血があって、そのあと傷が青紫に変色して水ぶくれに腫れ上がったそうじゃないか。

なんでも頭部が変なふうに凹んで腹の上を鎌のようなもので擦った切り傷があったとか、なかったとか…。

それは犬のことかい、人のことかい?

それってどれさ。俺はそう聞いたからそれ以上のことは知らん。
そう、この耳でしっかりと聞いたからな。

だから、それはどこまでが犬で、どこまでが人の話…?

そないなこと、知らんがな。
それより、話によれば血統書付きのわりに、なんとまぁ、残忍な犬ではないか。てっきり大人しい、賢い犬だと思っていたが、…。呆けた飼い主に似ちまったんだか、散歩行かずの後遺症が祟ったのかねぇ。

で、その後、飼い主たちはどうしてるんだ?

ああ、今は流行りの疫病が伝染るとかで、マスクをして引きこもっているんだと。

犬は処分しちまったのかねぇ。
今じゃすっかり姿も見えんわ。とうとう保健所のご厄介になって、安楽死かライオンの餌にでもなったんかな…。そな思えば、ちと、可哀想やな。歳月とは、むごいもんやなア…。齢は取りたくないもんや。

犬は、どこに行ったんやろう?
老夫婦がすべておらんようになっても、行方は分からんらしい。
そんな人を噛むようになった犬、まだ村のどこかを徘徊しよるんやろかなア…。

しかし…、
あの家ホンマに犬なんかおったんやろか…?

              *

マスクをしたまま顔を見せなくなった老夫婦の口の周りに見慣れた黒い毛が付着し、棺の中の夫婦の歯と歯茎に、淡くなった血糊がベトリ、ついていたことなど村人は最後まで知ることもなく、噂は自由気ままに七十五日を徘徊し、次第に行方をくらませていく。
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四トントラック [02_詩]

四トントラックの背に鉄屑ばかり積んでいた
製鉄会社を回って非鉄金属ばかりを探して
使い物にならないモノたちを再利用しようと
かき集めていた、父の会社

工場の垣根になるほどの拉げたタイヤの群れ、
切られた銅線と凹んだアルミ缶、
自分のようなもの、家族のようなものを
抱え込んで走っていた

買ったときは真っ白だった四トントラックは
鉄粉にまみれ、金属に擦られ
鉄屑にのしかかる工場の巨大な磁石に
バウンドさせられて 
赤茶けた場所が広がった

使い物にならないものは
チューブの抜けたタイヤ、
原形を留めないアルミ缶や剥き出しの銅線、
伸びきったバネや錆びついたネジ、でもなく
四トントラックだったかもしれない

トラックを引き渡す日
わたしは荷台とドアの間の梯子をつたって
トラックの天辺で山に沈む夕陽を見ていた
日が暮れても工場から帰らなかった
工場はもう社名の違う看板が掛けられていて
遠くからきた人たちのものになっていた

夕陽に焼け焦げる空と仄暗い山を見ていると
真っ新なトラックに置いてけぼりにされて
なんで連れて行ってくれへんのや!と
泣き喚く女の子がトラックの後を駆けていく

困り果てた赤ら顔で骨太の男の手が
彼女を運転席の横に乗せると
女の子が泣き止むまでいつまでもいつまでも
ずっと、一緒に 走り続けていく
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