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微熱 [02_詩]

   
── 微熱が台所の音に責められている

頑丈な米袋から差し込まれる骨太の手は
台所から 私の胸倉へ押し入ってくる

洗い場の指たちは
羽釜の水をかき回し
じわりじわり しこりを擦りつづけている

シンクを叩く水音は はね上がり
寝室の私の頬にも 降りかかるが
しまわれていたままの米袋の手は
胸元を掴んだまま ゆるさない

炊飯器を仕掛けた指たちが
温めて膨れてできた仕舞事

振り返れば小さな虫が 一匹、
ペーパータオルの隅を カサコソと
夜の最中を逃げていく

一生懸命だけどみっともない。
生きることに 後ろ指をさされながら
朝になれば食事をする
(死にたくない、からだ

多くの言い訳を詠いながら
台所の音が 私の頭をうずめていく

シンクの前に立つ人の
思いつめた横顔の下を
とてつもなく うしろめたい水が
落ちて拡がりつづけているが
私は その音を
止めることができない
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